インセンティブと価値

インセンティブのために行動するとき人間は、そうでない場合に比べ、問題解決や目標達成に対する能力が落ちるということは何世紀も前から実験により証明済みのことらしい。

それは、人間が「今の価値」のために行動することが自然であることの証明でもある。インセンティブのために行動するということは、言い換えれば、「未来の何らかの成果」のために行動するということだ。しかし、そこでは、未来の不確かな価値のために今を無視した(とその当事者が感じる)状態ができるため、行動の当事者は今現在の行動に集中できず(なぜなら、価値があるのは今ではなく、結果が訪れる未来と過去の実績のみであるから)、結果的に行動の能率も下がるのである。つまり、インセンティブを重視する考え方(成果至上主義)とは、今現在に対する無価値感を増幅させる作用を持っているのである。これに対処するためには、プロセスや挑戦自体、生きていること自体への価値感(=自己肯定感)を高める必要性がある。そうすることによって人間は、今現在の行動に価値を見出すことができ、より、安定的に(精神的)幸福を感じながら生きられるようになる。それに伴って、人間の創造性が大きく開花し、人間社会の様々な問題が解決され、それによりさらに多くの人々が幸福を感じられるようになる好循環がおこることが予想される。つまり、環境(インセンティブ、外的要因)によって、精神の幸福が決まるという考え方にコペルニクス的転換をおこし、幸福というものをより主体的なのとしてとらえるべきだということである。具体的には目標達成や問題解決のみに価値を置くのではなく、そのために行動できること自体に価値をおくべきということだ。そして、そのように思えることを私たちはするべきなのである。